ヴィクトリアの移動都市カラドン。その片隅に、感染者たちが寄り集まって暮らす感染者地区があります。オリジニウム工場の煙突が夜通し煙を吐き、交代を終えた労働者たちは一軒の古びた店へと集まってきます。
そこは「グリーンスパーク」。誰もが酒場だと思っていますが、実は草花ランプの工芸品店で、カウンターにはフェリーンの感染者の少女スージー・グリッターが立っています。指先から火花を散らすアーツを持つ、よく笑う子です。
スージーには長年の夢があります。この店を買い取り、自分の名を掲げた人生を始めること。そして今、その夢にまさに手が届こうとしています。
6,500ポンド、その紙切れは夢へ渡る橋でした
フィンの揚げ物に薄味のポテトスープ、香りのない果実酒がすべての店です。それでも感染者のストーンとビーン、感染者でもないのに毎日立ち寄るジムズのような常連がいました。街で感染者だと殴られる日でも、この店でだけはスージーは笑うことができたのです。
感染者にとって夢は贅沢です。みんな適当に腹を満たし、病が深まるのを待ちながら生きているのですから。それでもスージーは何年もかけて節約し、6,500ポンドを貯めました。
約束の日、店の主が来ると言っていました。ところが現れたのは、常連でロドス・アイランドの「専門家」ビタールートさんでした。実はグリーンスパークはロドスの資産で、彼が持ち主だったのです。
スージーはヘアサロンを開きたいと言いました。父親が理髪師だったからです。
髪を切るなんて些細なことのようだけど…自分を飾ろうとする人は、きっとまだ人生を信じているんです。
— スージー
契約はあっさり終わりました。常連たちが押しかけて祝ってくれて、スージーはつい泣いてしまいました。明日には自分が店長だなんて。感染者にとって、これはあまりに贅沢な幸せでした。
ところが翌朝、煙が立ち上りました
大きな火が平和な朝を打ち砕きました。
「グリーンスパーク」と書かれた看板は真っ黒に焦げた欠片だけを残し、壁も屋根も溶け落ちていました。昨日まで夢であり未来だった場所が、廃墟になったのです。
誰かが火を放ったのに、その理由さえわかりませんでした。
少女を支えていた意志は、もはやその華奢な体を支えきれませんでした。スージーはその場に座り込みました。
ビルの端に立つ少女に、見知らぬ魔女が声をかけました
数日後、街外れの打ち捨てられた区画。崩れた建物の窓辺に、スージーが危うげに立っていました。
その前にヘイズが現れました。野良猫と感染者の子どもたちを甲斐甲斐しく世話しながらカラドンをさすらう、フェリーンの魔女です。
実はヘイズは鉱石病の末期でした。誰もいないこの場所で静かに命を終えようと来ていたのです。ところがよりによって、飛び降りようとする子と出くわしてしまいました。
ヘイズはスージーを叱りました。他人がお前の夢を壊したのに、なぜお前が最後に残ったものまで台無しにしようとするのか、と。
失ったものがあるなら取り返してこい。ビルの下に落ちるべきなのは、お前の夢を壊した悪い奴だろう。違うか?
— ヘイズ
スージーがようやく思いとどまった瞬間、ヘイズが崩れ落ちました。口と鼻から黒ずんだ赤い血が流れました。感染者なら、それが何を意味するか誰もが知っています。
スージーは魔女を背負って街へ駆け、泣き叫びました。誰でもいいから助けてくれ、と。そのとき、店で一人で本を読むのが好きだった感染者労働者のレッドが現れました。
店を焼いたのは事故ではなく、ある計画の欠片でした
焼けた店の前で、騎馬警官グラニは拳を握りました。感染者地区を進んで助ける数少ない治安要員だったからです。
現場には軍用焼夷弾の破片がありました。警備隊は事故と断定して揉み消そうとしましたが、グラニは食い下がりました。
焼夷弾はビシュマー伯爵の軍用工場から出たものでした。そして警備隊長は、ビシュマーの甥だったのです。
同じころ、老獪なアングスト議員を狙った誘拐劇がありました。感染者に扮した暴徒たちが、議員の代わりにロドスの専門家スカイフレアを捕らえ、空っぽの工場へ引きずり込んだのです。
それは大きな間違いでした。スカイフレアはマウントヴェラン家のキャスターで、炎で爆発物を丸ごと焼き払って無力化したうえ、暴徒たちを制圧してしまったのですから。
パズルがはまりました。ビシュマーは市議会の金で工場の設備を横流ししたあと、工場を爆破して「感染者の仕業」に仕立て上げ、横領を隠そうとしていたのです。
グリーンスパークの火災は、その計画を準備していた暴徒二人が、逃げるヘイズを追って投げた焼夷弾でした。何の関係もなかったスージーの夢が、他人の陰謀に巻き込まれて焼けてしまったのです。
地下通路で、火花が散りました
その間にスージーが姿を消しました。報告書に書いた「証人」を問い詰めようと、警備隊長がスージーを地下の物流通路へ引きずり込んだのです。
店主クエルクスが動きました。「ゴドジンのドルイド」と呼ばれた彼女は、実はロドス・アイランドの伝令だったのです。
そのとき遠くで爆発が地下を揺るがしました。グラニが暴徒たちを追い詰めていた隠れ家が、中に積まれていたオリジニウム爆発物とともに丸ごと吹き飛んだのです。崩れた構造層が警備隊長を襲いました。
混乱の中、レッドが現れてスージーを安全な場所へ投げ飛ばしました。実は彼は、炎の剣を操る手強い男でした。
そしてスージーは、生き延びたビシュマーと対峙しました。
たかが金のために店を焼き、数多くの無辜の感染者を害そうとした男。スージーの全身から火花が散りました。彼女は議員の首を掴みました。
あんたが何なの…私の日常を壊して。あんたが何だっていうの……
— スージー
ビシュマーが泡を吹いて息が弱まったころ、クエルクスが駆けつけてスージーを抱きしめました。火花に肌が焼かれても、手を離しませんでした。
こんな奴…あんたが殺す価値もない。帰ろう。
— クエルクス
帰るべきグリーンスパークはもうないと、スージーは低くすすり泣きました。
灰になった場所にも、炎は残っていました
ビシュマーは拘束され、警備隊は騎馬警察隊が引き継ぐことになりました。アングスト議員の議案は、たった一票差で可決されました。
153歳のアングスト議員は、来年には退くと言いました。爵位も身分も未練はないと言いながら、ただ一言を残しました。
時代は変わらねばならん、マウントヴェラン。
— アングスト議員
スージーは「街の英雄」になりましたが、手にしたのは大きな証書一枚だけでした。ヘイズは生き延びました。ロドス・アイランドが急性発作を治療してくれたからです。

クエルクスは尋ねました。別の場所で酒を作り、髪を切ってみるのはどうか、と。ロドス・アイランドに一度行ってみないか、と。
振り返ればこの街には隠れた手がずいぶん多くありました。ロドスのビタールートとクエルクス、そしてマークを外したまま感染者地区を静かに支えていたレユニオンのレッドとビーンまで。
遠い荒野では「缶詰」と呼ばれる怪しい商人が、世界が崩れつつあると言ってレユニオンに手を差し伸べていました。良くも悪くも、誰かが何かをしなければならないと言いながら。
黒い暗雲の果てには、今なお炎が瞬いている。
— キャノット
「グリーンスパーク」は灰になりました。でもその名の緑の炎は、スージーの指先でも、この暗い街でも、まだ消えていません。