Ave Mujicaは、ロドス・アイランドの新人キーボーディスト豊川祥子が率いる5人組バンドです。ステージの上では一分の乱れもない完璧な『人形』たちですが、実はお互いのことをよく知らないことだらけでした。
マスカレード終わりの帰り道でも、5人の温度差は変わりません。人気を満喫したいドラマー、新曲の歌詞を磨くことにばかり没頭するボーカル、そしてその間で、ただまた集まれたことが嬉しいだけのメンバーまで。
あるライブの夜、祥子は横断歩道の真ん中で、見知らぬ声が押し寄せる奇妙な夢を見ます。夢は目を覚ませば消えるものだからと、祥子はさして気にも留めませんでした。
しかしその夜以降、祥子が本当に目を覚ました場所はロドス・アイランドではありませんでした。二つの月が浮かぶ見知らぬ城、そしてその城のステージには、バンドの仲間4人が並んで眠っていたのです。
1. 新入社員、横断歩道で予知夢を見る
ライブ後の帰り道、にゃむが何気なく祥子の話を持ち出し、初華と睦をからかいます。みんなが笑い合う中、祥子だけ表情が曇っていくことに誰も気づきません。
信号が変わるのを待っていた瞬間、祥子の目にだけ奇妙な残像がよぎります。誰かが自分を責め立てる声、そして降りしきる雨。我に返ると、祥子はロドス・アイランドの船内のベッドの上にいました。

同僚のヴィグナは、新人の祥子がすでに医療部・工兵部まで掛け持ちしていることを心配しています。鉱石病で母を亡くした祥子にとって、ロドス・アイランドは恩を返すべき場所であり、なかなか休もうとしないからです。
そんな祥子を乗せて物資輸送に出たトラックには、思いがけない同乗者が2人いました。自分たちを『妖精様』と名乗るアイリスとベナ、そして切実に誰かを探さなければならないという事情です。
2. 『これが最後の手紙だよ』——アンという少女
2人が探しているのは、手紙でしか知らない童話作家志望の少女『アン』です。最後の手紙に残された一文、「これが最後の手紙だよ」がただ事ではなかったのです。アイリスは、アンが成人になる誕生日がまさに翌日だということも教えてくれます。

夜道で出会った花売りのおばあさんは、目が霞んでいながらも祥子に道を教え、気をつけてねと声をかけてくれます。祥子はそのささやかな優しさに、なぜか懐かしさを感じてしまいます。
古びたアパートで祥子が出くわしたのは、酔って娘の名前を呼びながら泣き崩れる父親と、その傍らで息を潜めていたアンでした。アンが書いてきた『幸せな童話』は、実は自分の本当の人生を裏返して作り上げた嘘だったのです。
深夜0時に近づく時計を見て、祥子はアンに最後の瞬間を一緒にいてあげると言います。成人になる直前、祥子のピアノの伴奏に合わせて、アンはとても穏やかに眠りにつきました。
遅れて到着したアイリスは、アンの夢の中で、その子が書いた物語の登場人物たちを全員呼び出してお茶会を開いてあげたと話します。「本人の同意なしに子供の夢に入るのは許されない行為」というのが夢の城の掟なのだと。
アイリスは祥子に、悪夢を防いでくれるというネックレスを贈ります。その夜、ネックレスを着けたまま祥子が目を覚ました場所は……ロドス・アイランドではなく、見知らぬ城でした。
3. モルフェウスの挑戦状
城の主を名乗る少女モルフェウスこそ、祥子をこの城に閉じ込めた張本人でした。暇つぶしに捕まえた子供たちの中で、唯一自力で夢から抜け出した祥子を不思議に思い、興味を示します。

ステージの上には、にゃむ、海鈴、初華、睦が穏やかな表情で眠っていました。何度名前を呼んでも、4人は目を覚ましません。
モルフェウスのそばには、まともに言葉も話せない獣『ウルフ』と、鳴き声しか出さない群れ『カールトン』しかおらず、話し相手がいません。だからか、モルフェウスは祥子の忘れられない記憶や見知らぬ光景を、何度もこっそり覗き見していたとあっさり認めます。
モルフェウスは勝負を持ちかけます。仲間たちの夢に一人ずつ入り、彼女たち自身の力で目を覚まさせてみせろと。失敗すれば4人は永遠にこの夢の中に残るという条件付きで。
Ave Mujica全員が揃うまで、私はここを離れません。
— 豊川祥子
4. にゃむ——きらめくステージの裏側
にゃむの夢の中で祥子がたどり着いたのは、天を突く摩天楼の都市、龍門でした。新人女優のにゃむは、主演を務める映画の撮影、爆発的な人気、そして果てしないスケジュールに埋もれていました。

撮影現場では、監督と脚本家が台本を巡って大喧嘩し、揃って入院する騒動まで起きます。おかげで思わぬ休みを得たにゃむは、久しぶりに故郷の両親に電話をかけます。
訛りの混じった声で様子を尋ねる両親、そしてドラムを習い始めたと嬉しそうな弟。でも電話を切った途端、にゃむは再び華やかな照明の下、ソラとの放送スケジュールの中へと歩いていきます。
華やかな見た目とは裏腹に、にゃむの部屋の隅には埃をかぶったドラムスティックだけがぽつんと置かれていました。にゃむを本当のにゃむとして扱ってくれる人は、もう誰もいませんでした。
祥子は、華やかな照明の下で笑っているにゃむに問いかけます。ドラムも、仲間も、自分自身も失って得た愛は、本当に望んでいた夢なのかと。
ドラムも、仲間も、自分自身も失って。どれだけ多くの人に愛されたとしても、これがまだあなたの夢だと言えますか?
— 豊川祥子
5. 海鈴——どこにも属さない狼
海鈴の夢の舞台は、マフィアたちの都市シラクーザでした。実力だけを頼りに複数のファミリーを渡り歩いてきた海鈴は、落ち着こうとするたびに『裏切り者』という濡れ衣を着せられ、追い出されることを繰り返していました。

実は海鈴は、かつてそのファミリーに本当に心を許していました。パーティーに招かれ、一緒に演奏しようとまで誘われましたが、腰を据える決心をしたまさに翌日、濡れ衣を着せられて半年間投獄されてしまいました。
海鈴を仇のように扱う元仲間フランシスと、海鈴を手に入れようとする新しいボス。どちらも海鈴を利用するだけで、本当の海鈴を見てくれる人はいませんでした。
祥子は、この対立のすべてが誰かに仕組まれた罠だったことを明らかにしながら、海鈴に手を差し伸べます。何度も見捨てられ、利用されてきた人生が、本当に海鈴の望んでいた『信頼』だったのかと問いかけながら。
八幡さん、こんな場所で苦しむ必要はありません。私と一緒に帰りましょう。
— 豊川祥子
6. 初華の島、そして沈む船
初華の夢の舞台は、人けの少ない小さな島でした。初華は聴力を失いつつある火山研究者エイヤフィヤトラと共に暮らしながらも、自分が一番好きだった『あの子』がいつ去ってしまったのか、思い出せずにいました。
2人の縁は、エイヤフィヤトラが山で道に迷った夜、たまたま夜空を見上げていた初華と出会ったことから始まりました。聴力がどんどん悪くなっても火山研究をやめない友人のことが、初華はどうしても心配でなりません。

祥子が古びた自転車でたどり着いた別荘は、初華が幼い頃、祥子と一緒に遊び、一緒に暮らしていたまさにあの家の再現でした。初華が望んでいたのは大それた夢ではなく、ただ『あなたと一緒にいること』それだけだったのです。
エイヤフィヤトラの後押しのおかげで、初華は遅ればせながら祥子を探しに飛び出しますが、2人は最後の瞬間、港ですれ違ってしまいます。島に一人取り残された祥子の前に、今度は巨大な波が襲いかかります。

息が詰まりそうになった瞬間、祥子を目覚めさせたのは、まったく別の声でした。目を開けるとそこは海ではなく、砂嵐吹く砂漠の真ん中でした。
7. 睦の最後のパーティー
睦の夢の中には、彼女がずっと恋しがっていた、貧しくても温かい家族がいました。土壁の小屋でも構わずぎゅっと抱きしめてくれる母、きゅうりジュースを売って稼いだお金を自慢する睦、そして近所の人が用意してくれた夕食まで。
心を込めて用意された夕食、久しぶりに開かれた近所のパーティー、そして再びギターを手にした睦。

じゃあ弾くね……『陽だまり』。
— 若葉睦
睦は実は、これがすべて嘘だと分かっていました。それでも、たった一度だけ、他の人たちのように自由に歌わせてほしいと祥子に頼みます。
幸せそうに見える睦の演奏を前に、祥子はどうしても手を差し伸べられず、ステージに背を向けて逃げ出します。それが睦のための選択だと信じながら。
8. 「あなたは睦じゃない」
逃げ出した祥子を待っていたのは、睦でもモルフェウスでもない、見知らぬ声でした。睦の中に隠れ住んでいた無数の『睦たち』が、本物の睦の代わりに祥子の前に現れたのです。
『睦たち』は、祥子がそばに残ってくれるならこの完璧な夢を永遠に守れると誘惑します。それを拒む祥子に向かって、彼女たちはじわじわと崖の縁へ手を伸ばします。

睦にはもう、祥子は必要ない。さよなら、祥子。
— 『睦』
9. 帰ってきた母
落ちていった祥子が目を覚ました場所は、今度は自分自身の夢の中、懐かしい故郷ヴィクトリアでした。そしてその家の中、ピアノの前には……すでにこの世を去った母が座っていたのです。

『母』と『父』は、祥子がいつも恋しがっていた、優しい両親の姿そのままでした。料理など一度もしなかった『父』は、娘の好きな料理を作ろうと何度も練習したと自慢し、祥子は食べ過ぎでお腹を壊すほどその気持ちを受け止めます。
バンドの仲間の話を楽しそうに語っていた祥子は、しばらくすべてを忘れて、その優しさに身を委ねます。
しかし仲間を探しに行かなければという思いに、祥子はふと恐怖を感じます。みんなを探しに出発したら、二度とこの母には会えない気がして。
10. 母の告白
『母』は祥子の手を取り、2人の手のひらを重ねます。生まれたときは自分の手の半分もなかった手が、いつの間にか自分より大きくなったのだと。高校の入学式の日に3人で撮った写真の話も、優しく続けます。
ためらう祥子に、『母』は静かに真実を打ち明けます。自分が本物の母ではないこと、そして祥子もとうに気づいていたはずだということを。

『母』は、祥子の辛い時間に寄り添ってあげられなかったと謝ります。そして、娘がここに留まらず、自分の本当の人生に戻ってほしいと伝えます。
ここを出て、あなたの本当の人生を見つけてほしいの。行きなさい、祥子。あなたの『世界』へ戻りなさい。
— 『母』
涙でぐしゃぐしゃになりながら、祥子はもう一度歩き出します。今度は逃げるためではなく、仲間たちを迎えに行くために。
11. 人形たちの目覚め、再びのマスカレード
モルフェウスの前に戻ってきた祥子は、今なら分かります。仲間たちが本当に望んでいたのは完璧な幸せではなく、ありのままの自分を見てくれるたった一人の存在だったということを。
にゃむにはもう一度スティックを握る勇気を、海鈴には武器を下ろす理由を、初華にはすれ違っていた声を、睦には本当の自分の名前を返しながら、祥子は結び目を一つずつ解いていきます。

私たちは一つのバンド……そう、運命共同体です。これが、私の答えです。
— 豊川祥子
祥子の演奏に合わせて、にゃむも海鈴も、それぞれの夢の中で自ら結び目を断ち切ります。そうして4人全員が、ついに同じステージの上で目を覚まします。
エピローグ。忘れられる夢、それでも残る約束
再会の喜びも束の間、怒ったモルフェウスが最後のあがきを見せます。気を失いかけた祥子を救ったのは、遅れて到着した本当の城の主、アイリスでした。
アイリスは、モルフェウスが実はこの城の本当の主ではないこと、そしてあまりに多くの傷のせいで、おとぎ話のような夢を自分でも信じられなくなってしまった子だということを明かします。親に見捨てられ、化け物だと後ろ指を差された幼い頃の記憶が、モルフェウスを自分が作った完璧な夢の中だけに留まらせていたのだと。

アイリスは、5人が元の世界に戻る方法をロドス・アイランドのドクターに尋ねてあげると約束します。ただし、目を覚ました瞬間から、この夢の記憶は少しずつ薄れていくだろうという言葉と共に。
その夜、5人は城の中に新しく組まれたステージの上で最後に一緒に演奏します。文句を言いながら荷物を運ぶモルフェウス、照明を吊るすと言って獣の姿で天井まで飛び上がるウルフ、その隣で楽しそうにするカールトンの群れまで一緒に。

これは私たち人形の不思議な冒険譚。ようこそ、Ave Mujicaの世界へ。
— 豊川祥子
あの日、祥子が渡っていた横断歩道の信号は、やがて再び緑に変わりました。忘れられる夢だとしても、共に過ごした時間だけは、5人全員にとって本物だったのですから。